こんなにも切なく苦しい恋の和歌があるだなんて・・・・
この記事では、わたしが好きな切ない恋の和歌を3つに厳選して紹介しています。
わたしなりにストーリーを交えながら説明しますので和歌に興味がなくても共感してもらえると思います。
こちらの記事を読んで和歌を好きになるきっかけとなってくれたら嬉しく思います。
しいて行く・・・
「今までありがとうございました」
彼女はうつむきながら、そう言った。
「本当に・・・行くのか・・・?」
答えは分かっていても俺は聞かずにはいられなかった。
「はい・・・。すいません・・・」
彼女はうつむいたままそう答えた。
そして、彼女が踵(きびす)を返そうとした。
俺は、行こうとする彼女を引き止めるように強く彼女を抱擁(ほうよう)した。
「行かないでくれ・・・さくら・・・」
「友雅(ともまさ)様・・・」
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
どうか、このまま時が止まってほしいとも思った。
だけど、彼女は「すいません」と言うと俺の腕の中からするっと離れていった。
彼女は俺に背を向けると桜並木の中を歩き始めた。
しひて行く 人をとどめむ 桜花 いづれを道と 惑ふまで散れ
どうか、桜花よ。あの方の帰り道が分からなくなるほどに舞い狂い、そして散れ
ひとことメモ
この和歌が好きな理由は、なんといってもこの和歌を見ただけで桜が狂うように舞い散るサマがありありと目に浮かぶからです。
愛する人をどうか引き止めて欲しいと桜に願うところがまたなんとも切ないですよね。
男のはがゆい気持ちが伝わってくるそんな和歌です。
白玉か
「高子、俺のことが好きか?」
「はい、業平(なりひら)様のことを心よりお慕いしております」
「じゃぁ、二人でここから逃げよう」
そういって二人は深い森の奥へと進んで行った。
「あ!」
すると、高子が急に声をあげた。
「どうした?」と言って業平は高子の方を向いた。
「わぁぁ、これ綺麗〜」
彼女は、草についた水滴を見て感動をしているようだった。
「業平様、これは何ですか?真珠ですか?」
「それは、露だ」
そう、業平が答えた後、二人は更に森の奥へと歩みを進めて行った。
白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消えなましものを
「(あれは)真珠ですか、何ですか」と(あの人が)尋ねたときに、「(あれは)露だよ」と答えて、(その露が消えるように俺も)死んでしまえばよかったのに。
ひとことメモ
おそらくこの和歌を詠んだだけでは、この切なさがあまり伝わらないかと思います。
そう、これは二人の恋のゆくへが分かったあとにこの歌の切なさや虚しさがひしひしと伝わってくるのです。
このあと、二人の逃避行はうまく行かず高子は兄たちに連れ戻され、結局は清和天皇の中宮(二条の后)となるのです。
そう、在原業平(ありわらのなりひら)という美男子が失恋する話です。
そのため、この和歌はその業平が歌った切なく悲しい歌なのです。
「別れが訪れると知っていたなら、俺もあの露のように消えてなくなってしまえばよかった。そうすれば、こんなにも辛く悲しい思いをせずに済んだのに・・・」
そんな思いが込められた和歌です。
夢と知りせば・・・
「小町さんのことが好きです!」
まだ、世の中のきびしさを知らぬ若い男性がわたしに告白をしてきた。
「悪いけど、あなたのようなガキにわたしは興味がない」
「では、どうしたら僕のことを男として見てくれますか?」
「そうね・・・」わたしは少し考えたあと、意地悪そうにこう答えた。
「百夜(ももよ)通いができたら考えてあげても良いわよ」
「百夜通いですか?」
「そう。毎晩、わたしのところに逢いにくるのよ。それを100日間続けるの。もちろん1日でも来なかったらアウト。どう、やってみる?」
「百夜通うんですね。わかりました!」
その男は、こうして百夜通いをすることに決めた。
毎晩、毎晩、彼はわたしのところに来ては明るい笑顔で挨拶をしてわたしのことを好きだと言って帰っていった。
そうしていくうちにわたしも次第に彼のことを好きになり始めた。
そして、気づけばとうとう100日目。
彼が来たら、こう言おう。わたしもあなたのことが好きですと。
あれから三日後・・・わたしは彼の夢を見た。
思ひつつ寝ぬればや人の見えつらむ夢と知りせばさめざらましを
恋しく思いながら寝入ったので、あの人が現れたのだろうか。夢だと知っていたら、目覚めたくはなかったのに。
ひとことメモ
百夜通いは有名な話なのでご存知かもしれませんが、一応結末をお話しします。
100日目の夜ですが、ものすごい嵐が襲ってきました。
もちろん、周りからは行くのを止められました。
けれど、彼は小町さんと約束したからと言って行くのを決行しました。
そして、彼は小町に会うことなく命を落としたのです。
とても悲しいお話です。
しかも、小町は超美人で和歌を詠むにも秀でてるいわば眉目秀麗女子。
けど、男には一切興味がなくモテても片っ端からあしらってたんです。
なので、あの「まち針」という語源はツンツンしている彼女の名前からもじったとも言われてますね。
彼女が誰の夢を見たかは分かりませんが、わたしは百夜通いの彼だと密かに思っています。